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 2003年12月31日              中央アルプス池山 1774m

    

 

 林道中間点 〜 鷹打場 〜 池山        往復   

    

 

 敗退以前の不戦敗。この年の終わりは木曽駒で、そのつもりで気負って行ったら追い返された。菅ノ台のバス停から見上げても空は灰色で何も見えない。バス待ちの登山者は10人ほど、思いのほか少ない。お一人ですか?年輩の男の人から声をかけられた。豊田の人で、今日は宝剣山荘まで行くとかで毎年正月はどこかの山小屋で迎えるのだという。車中この方がいろいろ話をしてくれた。冬の富士山や剱の話し今から登る木曽駒のルートのことなどなど、すごいベテランだ。年齢をうかがうと来年七十とのこと。

 ロープウェイを降り出口に向かうと「指導員」の腕章をした人たちが通路に待ち構えていた。登山届けの提出を求められチェックされる。「一人?日帰り?今日はホワイトアウトの上、風が強くて無理です。」「稜線まででも。」「行けません。」「少しだけ。」「少し行っただけでも戻るルートが分からなくなります。ルートを外れると雪崩に遇うかも・・・・」。結局、しばらく様子を見て帰りますということで折合いをつける。駅から外への出入り口にも指導員がいて番をしている。とてもザックを担いで外に出れる雰囲気ではない。「外を見てくるだけ」とザックとピッケルを扉のわきに置く。出入り口の鉄製の扉を少し開くと、ゴーッという音といっしょに風と雪が舞い込んできた。外に出ると冷たい強い風が吹き抜けていて、すぐに顔が痛くなってしまった。風だけならともかく、ガスが濃く出口のすぐわきにある駒ヶ岳神社の社さえ灰色にぼやけている。「足もとを見られたね」。中に戻ると豊田の人に言われた。足もと?ああ、そういうことか、新品のプラブーツ。新品は靴だけじゃない、ウエアもザックも新品だ。これじゃ登山道具店の店員さんのお勧めおまかせあつらえ冬山デビュー装備だ。あの〜、どこか冬山に行きたいんですが、みつくろってもらえますか〜。じゃ、こんなところでどうですか、木曽駒あたりならロープウェイですぐ取りつけるし初心者向きですよ。ああーこういうのいるんだよな、アプローチが簡単だから初心者向きだと勘違いして一人でくるやつ。冬山の本当の恐さ分かってんのか、何が少しだけだ、素直に帰れ・・・という感じだったのか。どちらにしても日帰りでは様子を見ている時間などないし力もない。次のロープウェイで帰ることにする。豊田の人にたずねると「行きます」ときっぱり平然と答えが返ってきた。かくあるべし、でも僕は下に降りる。

       

 このまま帰ったらプラブーツが試せない、池山に向かう。駒ヶ根スキー場と林道終点の中間点に車を置き鷹打場登山口まで林道を歩く。登山口からトレースをたどり空木岳と池山の分岐に。トレースは空木に向かっている。池山への道はまっさらだ、少し嬉しい。膝程度のラッセル、分岐から池山までは1200m、雪も軽いしこれくらいなら行けそうだ。分岐から50mも行かないうちに息が乱れはじめた、以外ときついかも。カラマツの樹林の中を粉雪まじりの横風を受けながらラッセルを続ける。寒さは感じないが、だんだん辛くなってきた。つづら折りになった道の先に灰色の空が見える。あそこが頂上か、あそこまでがんばろう。10歩登っては立ち止り息を整える。それを何度か繰り返しそのピークに出た。まだ真っ白な道が続いている。尾根の上にのっただけだった。まだあるのか、もう止めようか、時間も気になる。時間は言い訳だ雪は軽い、下りはあっと言う間だ。

     

 右、左、自分に命じて足を前に出す。ゴーッ、ゴーッ遠くから風の唸りが聞こえてくる。上空はかなり荒れているみたいだが、ここの風はラッセルの汗を押さえるのに丁度いい。今日は3000m近い稜線を想定した防寒装備だ。2月の乗鞍岳でガチガチに凍えてしまった教訓からの装備だったが池山では試しようがない。プラブーツは思った以上に足になじんでいる。ぜーぜー喘ぎながら5歩進むだけで足が止まる。ストックを持ってくればよかった。手に持っているのは55センチのピッケルだ。ひょっとして宝剣にもと思い岩場用に短かめのを持ってきた。短すぎてストックの代わりにならない。ガスの中50mくらい先に霞んだ標識が見える。今度こそ池山の頂上だ。あと少し、あと少し、積雪が浅くなり風通しのいい頂上広場に出た。よし、これで戻れる。

 ザックからポットを出し紅茶を飲む、すごく落ち着く。あんパンを食べて帰路につく。自分の踏み跡を辿りながら駆け降りる。さっきまでの登りの苦しさが嘘だったみたいに爽快だ。鷹打場登山口まで戻ってから、あっそうだと思い出した。まだ14本爪アイゼンを試していない。プラブーツに装着して林道を下りはじめたが、あまりのバカバカしさにすぐにはずして、またザックにしまった。

     

 駒ヶ岳は残念だったが、まっさらな池山にトレースを残せてよかった。豊田の人は無事に宝剣山荘にたどりつけただろうか。僕もあの人みたいに夏でも、冬でも、幾つになっても、一人でも、ずーっと山とつき合い続けたいものだ。

       

  

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