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 2003年9月2・3日   前穂高岳 3090m 奥穂高岳 3190m 

       

 上高地〜前穂高岳〜奥穂高岳〜涸沢〜上高地          

    

           

 9月2日   上高地〜岳沢ヒュッテ

  12:30     上高地バスターミナル   

  12:45     岳沢登山口

  13:14     風穴

  14:17     岳沢ヒュッテ

      

      

 ちょうど一年前、西穂から槍への縦走で一つ忘れ物をした。上高地バスターミナルから地ビールを飲みながら岳沢ヒュッテに予約を入れる。河童橋から眺める穂高岳の大障壁の稜線は灰色の雲におおわれていてる。明神に向かう自然道を右にわけ岳沢登山道に。登山口から樹林帯を30分ほど、岳沢本谷と独標に突き上げるカモシカ沢出合いあたりの風穴に。岩の隙間から地下の氷結モレーンから吹出す冷たい風が気持ちいい。本谷左岸沿いに道がつたいだすと時折沢越しに視界が開けるが、右岸の尾根に展望が遮られる。登山口から1時間半、ゴーロを右岸に渡ると岳沢ヒュッテに到着。まずはテラスで生ビール、今度も酒浸り山行きになりそうだ。まだ2時半だ、夕食まで時間があり過ぎる、明日のヘッデン登山に備えて登山道の下見に。下見から帰ってまたビール。5時半夕食。泊まり客は8名、静かな晩ご飯だ。7時半、ビールとハルシオンを飲んで就寝。明日は去年置去りにした前穂だ。

 

        

 9月3日  岳沢ヒュッテ〜前穂高岳〜奥穂高岳〜涸沢〜明神

     

   3:55     岳沢ヒュッテ

   4:52     カモシカの立場

   〜 4:58

   5:52     岳沢パノラマ

    〜5:35

   6:08     雷鳥平

   6:22     紀美子平

   6:47     前穂高岳

    〜6:57

   7:20     紀美子平

    〜7:57

   9:04     南稜の頭

   9:14     奥穂高岳

    〜9:20

   9:45     穂高岳山荘

    〜9:55

  10:56     涸沢小屋

    〜11:40

  12:38     本谷小屋

  13:20     横尾山荘

    〜13:50

  15:16     明神橋

   

 3時半、目覚まし無しで起床。ホールで身支度を整え朝食弁当を食べる。靴を履いていたら、小屋のおじさんが出てきて玄関のカギを開けてくれた。3:55出発、東の低空にわずかに星が見えるだけで月も見えない。ゴーロを左岸に渡たりテント場の上から樹林帯に入る。木々におおわれた登山道は真っ暗だ。40分ほどで最初の鎖場、暗闇の中で鎖をつたうのは妙な気分だ。稜線にのると空は漆黒から濃いコバルト色にかわりはじめていた。足下の岩屑が、わずかに明かりを吸収して白くぼーっと浮かび上がって見える。ヘッデンで照らした岩に「カモシカの立場」と書かれている。重太郎新道はカモシカの足跡をたどってつけられた、というのが定説らしい。途中、二段の梯子を登り5時半近く岳沢パノラマに。ようやく空が白みはじめた、もうヘッデンはいらない。小雨が降出しカッパを着る。雷鳥広場を過ぎ、スラブの鎖場に取りつく。すっかりガスっていて高度感がまったくない。

            

 6:22、紀美子平、小休止して前穂高岳へ。ザックはデポしない。7時前に前穂高岳山頂に。小雨とガスで何も見えない。紀美子平にもどり二度目の朝食。天気も悪いし岳沢に引返そうか、とにかく前穂に登ったのだから・・・・と、考えていると奥穂側から山岳部風の男の子が二人。奥穂からどれくらいかかったと聞くと、「1時間半、でも僕達早いですから」との返事。やれやれ、見下されたか、登りでも2時間はかかるまいということで、やっぱり奥穂まで行くことにする。紀美子平から少し下ると最低コルに、ここから岳沢沿いにつけられたトラバース道を淡々と奥穂を目指す。トラバースといっても心臓が締めつけられような緊張するような難所はないが雨まじりの強風に時折たじろいでしまう。1時間半ほどで南稜の頭に、雷鳥が5、6羽岩頭に群れている。さらに10分程で奥穂山頂に。ガスの中、大きなケルンが見えたと思ったら奥穂だった。上りも下りも10分ほどしか変わらない。山頂には去年製作中だった丸い展望板がケルンの上に置かれていた。すごい風だ。穂高岳山荘からきた男の子に記念写真を撮ってもらう。

         

 穂高岳山荘への下りはじめると嘘のように風が止んだ。ただ雨で足下が滑りやすく山荘まで思いのほか時間がかかった。去年はもっと早く下れたのに。穂高岳山荘のテラスで休憩、体が冷たくてビールも飲む気になれない。涸沢を目指しザイデングラードを下る。途中ガスを抜けると急に明るくなった。振返るとやはり穂高の峰嶺は雲に隠されている。涸沢小屋で昼食、カレーライスを注文してやっぱり生ビール。屏風岩の上部も雲に被われている、とても屏風の頭からの展望は望めそうにない。パノラマ新道を下山コースにとるのは諦めることにしてのんびり休憩していたら突然大粒の雨が、また雨か山の天気は変わりやすい。小雨になったのを見計らって涸沢小屋を後にする。本谷橋に出るまでに、片手に傘、片手にストックという不思議な人達に何人かすれ違った。涸沢までは自然道の延長ということか。退屈な道がつづき、うんざりしたころに横尾に到着。予定ではここから中房温泉に向かうつもりだったが、稜線で雨にやられて気分が変わった。今日はどこかお風呂のあるところに泊まって、明日はのんびり上高地を満喫することしよう。明神までくだり橋を渡って宿をとる。

            

9月4日   明神〜上高地〜ピラミッドピーク〜上高地

       

  

       

 前夜、同宿だった写真が趣味というフレンチな花屋さんと仲よくなり、一緒に独標に行くことに。のんびり朝食をすませ上高地に移動。時間が許せば西穂高まで一人で行こう。天気はとてもいい。穂高の大障壁のスカイラインがくっきりしている。今日の宿、西糸屋にザックの中身を預け最低装備の軽装ハイキングモードで上高地を後にする。登山口から中尾根にとりつき3時間ほどで西穂高山荘に到着。途中きれいなお花畑が二カ所あったが、僕に名前のわかる花はトリカブトだけだった。花屋さんはさすがに花のことはよく知っていていくつか花の名を教えてもらった。そういえば花屋さんの名前聞いてなかったけど、まぁいいか。

         

 山荘のテラスで生ビール。トイレがてら山荘裏手にまわると笠ガ岳に圧倒された。この山も必ず行かないといけない山だ。西穂から槍まで、ずっと見守ってくれた。お昼ご飯の後、独標へ。花屋さんはここまでよくがんばったけど、丸山を過ぎてから引返して行った。独標に立つと眼下遥かに明神から大正池まで梓川がほそく小さく蛇行していて箱庭のように見える。花屋さんに見せてあげたかったのに残念だ。ここで引返してもいいが、やっぱり独標だけは越えておきたい、ピラミッドピークをこの山行きの終点にしよう。

      

 ピラミッドピークから岳沢ヒュッテを見下ろし、つづら折りの重太郎新道から前穂、吊り尾根、奥穂岳と昨日のルートを目でなぞる。もうこれでいい。西穂に背を向け帰路につく。西糸屋に着くと5時半をまわっていた。「遭難したんかと思って心配しとった。」と西糸屋のおじさん。夜半、赤ワインをはべらせ河童橋の真ん中で仰向けになって星を仰いだ。無数の星が遠く近く瞬いている。人の声もなく梓川の流れが轟々と響いてくる、瀬音というにはほど遠い。首を上流に傾けると濃い紺色の夜空に漆黒の吊り尾根のシルエットが影絵のように滲んでいる。僕の体も深い夜の冷たい空気に滲みはじめているのかも。何かに抱かれている、ではなくて宇宙に帰って行く、そんな感じなんだろうか。やれやれ、だいぶ酔ってるみたいだ。

          

 5日、松本に戻り師匠と合流、サイトウキネンオペラ「ファルスタッフ」を堪能する。ベルディは終幕でファルスタッフに、「人生はすべて冗談、人間なんて道化師さ」と歌わせる。ベルディもきっと山が好きだったのかもしれないな、そんなふうに思った。

       

 写 真

  

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