HOME   鈴鹿北部  鈴鹿中部  鈴鹿南部  鈴鹿以外

 

 2004年1月12日      木曽駒ヶ岳 2956m 宝剣岳 2931m

    

 

 千畳敷 〜 駒ヶ岳 〜 宝剣岳 〜 P2911 〜 千畳敷          

    

 

       

 11日夜、ネットチェックのついでに翌朝9:00の天気予想図を見ると、高気圧が東北大平洋上にまではり出している。ピンポイント予報でも12日の駒ヶ根は終日晴天だ。いけるぞ、駒ヶ岳だ!ハルシオンを飲んですぐ布団に潜り込む。12日5時40分、登山届と山岳保険のコピーを嫁さんの寝室のドアに張り付け、こっそり出発。始発ロープウェイで千畳敷に。快晴、そそり立つ宝剣岳と伊那前岳にいだかれた千畳敷カールが白く眩しい。カールの底から乗越浄土にいたる稜線に向かって、一筋の線が引かれている。美しい、でも簡潔すぎる。底点に下る。雪面には足型が延々と続いてはいるがトレールという程のものではない。連休なのにあまり人が入っていないのかロープウェイに乗り合せた登山者も5、6人だけだった。

      

 あっ、しまった、アイゼンを駅舎の中で着けてしまった。何のために来たのかすっかり忘れている。雪面でアイゼンをはずし着けなおす。トレースをたどりカールを這い上がる。ピッケルが短くて石突きが雪にくいこまない。今日の課題は、アイゼンを絶対にスパッツに引っ掛けてバランスを崩したり転倒したりせず歩ききること。それとピッケルの長さだ。稜線、乗越浄土に出る。さすがに風が強さを増したが、冬山の稜線としては微風みたいなものだ。これではなと、思いつつ絶好のコンディションに、これなら宝剣も行けるぞと嬉しくなる。まずは中岳を経由して駒ヶ岳に。中岳の東斜面は所々氷が張って、てかてかしている。クラストした雪面にアイゼンの爪がざっくり効いて気持ちいい。鞍部から直登、山頂へ。誰もいない、遥かなる嶺々を見渡し、三の沢岳に視線を止める。中央アルプス主脈から離れ孤高の威容に満ちたあの山にも行ってみたい。青年が一人登ってきた。カメラを交換し記念撮影、宝剣岳へ。

     

      

       

 宝剣山荘の南から宝剣岳に取りつく。天狗岩の脇をわずかに下り、一本目の鎖場を慎重にやり過ごす。雪が凍りついた急峻な岩溝にピッケルのブレードを打ち込み前爪をしっかり効かせる。一つ一つの動作を意識して行う。宝剣北稜で唯一核心部となる、頂上直下、南西壁の鎖場のトラバース。ここを抜ければ山頂だ。天気がよすぎて高度感も最高。ピッケルをザックと背中の間に差し込み両手でしっかり鎖を握る。ピッケルは短い方がいい、扱いやすい。狭い山頂からカールを見下ろしているとさっきの青年が上がってきた。またカメラを交換する。こいつが南稜に降りたらついていこう。青年は雪の上に地図を広げている。南稜にトレースはついていない。千畳敷から極楽平に向かうトレースも無かった。一人で冬の南稜を降りる自信はない。青年は地図をたたむと来たルートを引き返していった。何故かほっとしてしまう。それじゃ、僕も引き返そう。天狗岩まで戻り、宝山荘経由の夏道をショートカットして乗越浄土に真直ぐ下る。突然、バッタリ前のめりに倒れた。何が起きたのか分からない。アイゼンの爪をスパッツに引っ掛けたのか、いや違う、緑色のナイロンロープが左の足首に搦んでいる。最短ルートで乗越浄土に下ろうとしたために、雪の中に埋もれた夏道のコースロープに足をとられたのだ。冬山では何が起きるかわからない。

         

 このまま乗越浄土から千畳敷に下るのは何か物足りない。ほんの少し足をのばし目の前の小高いピークへ。地図には和合山とあるが、すぐ北の伊那前岳より標高があり目立つピークだ、あそこで休憩してから下ろう。絶景、千畳敷カールから中岳、駒ヶ岳、宝剣岳、今日歩いたルートが一望に見渡せる。露出した花崗岩に腰かけテルモスの熱いスープをすする。ふと気がつくと磨きあげられた小さな石碑が雪の上に頭を出している。瞬間、本のタイトルが頭を走った。『気象遭難』羽根田治。『・・・二九一一メートルに向かって稜線を登って行く・・・間もなくして木下はピラミッドのような三角形のピークの向こうに消えて行った・・・爆風のような衝撃・・・』。ああそうか、ここだっったのか、2000年3月、残雪のこのピークで突風にさらわれ、亡くくなられた、その人の慰霊碑。半月前、冬の駒ヶ岳へと思った時から何度も読返したドキュメント。初めて一人で行く3000m近い稜線。このドキュメントから自分は何を得ようとしていたのだ。すべて、すっかり忘れている。何をしに今日お前はこの山に来た、何で駅舎でアイゼンを着けた、何故、南稜を降りなかった、このピークに立ちながら、何故忘れる。ああ、いかんいかん、初めて一人で冬の高い山を登り終えて、奇妙に興奮している。一人で南稜は降りられない、それが今の力だ。慰霊碑に黙礼して乗越浄土にもどる。千畳敷カールを下りながらまたひとつ思い出した。今日は嫁さんの記念日だ。心の中を真っ白に雪崩が埋めつくし、足を速める。「ロープウェイ最終3時55分発の改札は・・・・」千畳敷駅の案内放送が澄んだ空気を伝ってカールに響いている。ああそうだ今日は時計も着け忘れていた。今ごろ下界では、置き忘れてきた低気圧が荒れ狂っているだろう、やれやれ。   

    

 写  真

  

HOME  鈴鹿北部  鈴鹿中部  鈴鹿南部  鈴鹿以外